"おまけ"の短編小説 「露店市に行こう」
季節はもう四月の半ば、桜もその美しい花弁を散らせて、
葉桜がちらほらと姿を現し始めている時期だった。
ここは神武館から離れた場所にある、とある公園である。
今日は公園で開催される催し物の露店市が開かれている日だった。
その露店市の会場の公園の広場を若い男女が歩いていた。
「ほら!九十九!こっちに綺麗なアクセサリーがあるよ!」
「分かったから。そんなに引っ張らないでくれ」
女の子に引っ張られながら、九十九と呼ばれた少年は、
「陸奥圓明流の第40代伝承者」の陸奥九十九だった。
そして、そんな九十九の腕を引っ張っているのは、
「神武館」館長の龍造寺徹心の孫娘である、龍造寺舞子だ。
九十九は苦笑いしつつ、目の前の商品に夢中になっている舞子を微笑ましく思っていたが、
そもそも九十九は今日の露店市に来るつもりはなかった。
今日は舞子がどうしても一緒に行きたいというので着いて来ていたのだった。
本当なら修練の為に、組手を手の空いている者に頼んでしようと思っていたのだが、
その組手の相手を探している時に舞子に声を掛けられ、
柔道着のまま引っ張られて連れてこられたのだ。
そんな事を考えているとふと舞子から声を掛けられた。
「ね?九十九はこっちの白い方と赤い方、どっちがいいと思う?」
そこには首にかけるタイプのアクセサリーを二つ持っている舞子がいた。
白い方は天使の羽をモチーフにしたものだろうか、紐の先端に小さな羽が付いている。
赤い方は先端が透明なビー玉のようなものが付いていて、玉に日の光が当たり煌めいている。
「白い方も可愛いんだけど、赤い方も綺麗でいいんだよね」
舞子は二つのアクセサリーを交互に見やりつつ悩んでいる。
「どっちでもいいじゃないか?形が少し違うだけだろう?」
九十九は興味なさそうに言うと、それを聞いた舞子がムスッとした顔になった。
(ありゃ?怒らせたか?)
舞子が怒ると今日の夕食が酷い事になる、そう思った九十九は思わず、
「そんなアクセサリーをしなくてもお前は魅力的だから必要ないだろ?」
と普段の自分らしからぬ言葉を言った。
言った後で九十九の中に恥ずかしさが込み上げてきたのだが、後の祭りだった。
「なっ・・・!み、魅力的・・・?!」
それを聞いた舞子は恥ずかしさと嬉しさが混じって、すっかり顔を赤らめてしまっていた。
(なんで、急にこんな事を・・・!?)
(そういえば、今日はいつもと違って、すんなりと着いて来てくれたし・・・)
(まさか・・・、告白されたりして・・・!)
恥ずかしがって変に空を見上げている九十九、そして顔を赤らめて俯いている舞子。
そんな二人の前に店主から言葉が投げかけられた。
「あのさ、イチャイチャするなら店の前じゃなくて別の場所でやってくれよ?」
飽きれ顔でそう言った店主の言葉で、我に返った九十九と舞子は恥ずかしそうに、
アクセサリーの露店の前から急いで退散したのだった。
走って露店の前から退散した二人は少し息を切らしていた。
運動が決して苦手ではない二人だったが、
先程の事に動揺して変な走り方になっていたようだ。
慣れない走り方では息も切れてしまうだろう、それほど動揺していたのだ。
全く初心な二人である。
「お、おい?さっき言葉はその・・・」
とそこまで言いかけた九十九だったが舞子は、
それを遮るように前方を人差し指で指しつつ大きな声で言った。
「つ、九十九!ほ、ほら!あ、あそ、あそこに写真屋さんがいるよ!」
顔を赤らめて明らかに動揺しているのだが、
舞子本人としても、この空気には耐えられなかったのだろう。
やはり『魅力的』などと言われてしまえば動揺する。
好きな相手ならなおの事そうだろう。
それを誤魔化す様に前方にいる写真屋を指さしたのだった。
「んー?お若いお二人さんも写真を撮るのかね?」
写真屋の店主であろう、男性の老人が人の好さそうな笑顔で二人に問いかけた。
「ああ、その俺たちは・・・」
「撮ります!」
断ろうとした九十九の声を取り消す様に、大きな声で撮ると言う舞子。
「舞子。俺は写真なんて別に」
と小声で舞子に話しかける九十九だったが、
当の舞子はまだ顔を赤らめており、若干まだ目が泳いでいる。
この恥ずかしい気持ちには耐えられず、写真でも撮ってもらい、
少しでも落ち着きたいと思っている舞子は涙目になりながら少し恥ずかしそうに九十九に言った。
「と、とにかく!撮ろうよ?九十九?・・・ダメ?」
上目遣いでお願いされてしまったら、断れる男は残念ながらこの地球上にはいない。
男というのはとにかく、女の子からのお願いには弱いものだと相場が決まっている。
地上最強の男を目指す「陸奥圓明流の第40代伝承者」のこの陸奥九十九とて例外ではなかった。
「じゃあお二人さん。・・・そうだ、まずはの青年よ」
「お連れさんの肩に手でも回してみたらどうだい?」
それを聞いた舞子はビクッと体を震わせて九十九の方に目をやった。
まさか、恥ずかしさを紛らわす為に写真を撮るはずが、
更に恥ずかしい事になろうとしている。
舞子の視線に気づいた九十九は意地の悪い笑顔を浮かべると、
思い切って舞子の肩に手を回した。
「・・・っ!」
まさか本当に肩に手を回すなんて思っていなかった舞子はまた体がビクッと震えた。
顔が熱くなるのを感じる。
「ふぉふぉ、おー思い切っりがいいのぉ」
「よーし。では、撮るから動かんでくれよ」
突然、肩に手を回された驚いた舞子だったが、
撮る瞬間だけは、なんとか笑顔になる事が出来た。
カシャリという音ともに、フラッシュが焚かれて二人の写真が撮られたのだった。
それからしばらくの時間が経ち、帰る時間となっていた。
九十九と舞子も帰路につき、すっかり葉桜となった桜の木々の下を歩いていた。
「ねぇ?九十九?さっきの写真屋さんでなんで人差し指を立てていたの?」
「あー、あれかあれはな」
それから九十九は人差し指を立てた理由を話した。
自分が地上最強の男になるという決意を残しておきたかったからというのが、
人差し指を立てた理由だったのだ。
「あとは・・・」
「まだ理由があるの?」
舞子にそう問いかけられた九十九は、
”いや”と言って、続けて”なんでもないよ”と笑顔で答えて見せた。
(だって、地上最強の男だけじゃなくて、
お前の一番にもなりたいなんて言える訳ないだろう)
そう九十九は心の中で口にしなかった言葉を言った。
イラストと内容が重なるように書いてみましたー。
口調とか性格とかは違うかもしれませんが、楽しんで頂けていたら幸いです(´∀`;)
改めまして、1周年おめでとうございます!
読んで頂きありがとうございました!
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